精進の原義は「正しく仏道を歩む」こと
不殺生戒の精進料理は命と向き合う心の修行
鎌倉時代。平家を倒して鎌倉幕府を開いた源頼朝は、公家貴族の華美贅沢を嫌い、質素倹約に努めました。当然この時代の特徴は質素倹約になります。既存の仏教の教えに不満を覚えたこの時代の僧侶は中国で禅宗を学び、それと共に精進料理を日本に伝えました。
精進料理は肉食を断つため、植物性の食材で肉に近い味が感じられる工夫がされています。植物性の食材を味の濃い動物性食材の味に近づけるため、小麦粉や大豆粉などに植物油や味噌などインパクトの強い調味料と合わせる必要があります。それらの料理技術を禅宗とともに中国から持ち帰った鎌倉時代の僧侶が日本に精進料理を広めたのです。この料理の料理人は僧侶です。今でも「精進します。」という言葉を使いますが、精進という言葉には、「修行する。」という意味があるのです。
特徴
雑念にとらわれず、四六時中いかなる時も
一心修行に専念する為の食事が「精進料理」
精進料理は極めて単純な食材を、多くの制約がある中で調理するため、さまざまな一次・二次加工が施されてきたことも特徴のひとつである。例として、大豆は栄養価が高く、菜食で不足しがちなタンパク質を豊富に持つこともあり、精進料理に積極的に取り入れられたが、生食は困難である。このため、風味を向上させ、長期保存し、食べる者を飽きさせないといった目的も含めて、ごま油、豆豉、味噌、醤油、豆乳、湯葉、豆腐、油揚げ、納豆などが生み出された、こうした技術は、精進料理を必要とする寺院と宮廷を含むその周辺の人々によって、研究・開発され、蓄積されてきた。
精進料理において禁止されるものは肉類とネギ類=葷(くん)である、これを禁じるのが禁葷食(きんくんしょく)である。葷は昔から五葷(ごくん)と呼ばれてきた。時代によって5つの内容は若干異なっているが、代表的な五葷はネギ、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ、ニラの5つのことを指す。
このように、自他ともに修行の妨げになるため禁じられたという側面と、『首楞厳経(しゅりょうごんきょう)』に「まさに世間の五種の辛菜を断つべし。この五種の辛は熟せるを食すれば淫を発し、生をくらわば恚(いかり)を増す」とあるように、修行生活に必要のない性欲や、根本的な3つの煩悩(三毒)の一つである「怒り」をみだらに高めないという側面があったようである。
製法
浄められし心構えと、作法で引き出す
素材の滋味を輝かせる多彩な技法
宗派や地域・時代によって様々な発展を遂げてきた精進料理はその定義もそれぞれに異なります。例えば、禅宗のひとつ、曹洞宗の開祖、道元禅師は精進料理について「苦味、酢味、甘味、辛味、塩味の5つの味を基本に淡味に仕上げること」「煮る、焼く、蒸す、揚げる、生の5つの技法を用いて野菜本来の味を引き出すこと」「赤、白、黄、青、黒の5色の食材を用いること」というように調理方法についても様々な教えを残しています。調理自体にも正しい心構え・作法で行うことが求められていたようである。
食の多様化が進み、さまざまな料理を日常的に食べられるようになった飽食の現代、「食べること」も「料理すること」も修行の一環とする精進料理の考え方は、食への関わり方を見直すきっかけにしたいものである。無駄を極限まで減らす一方で、電子レンジなどは使わず、美味しさを追求するための手間を惜しまない姿勢など、調理工程にも意義があることを知る。心構えから作法を通して素材を磨くことを怠らず「食」に感謝することを忘れてはいけない。